文献紹介(犬の出血性下痢症候群)
【文献・犬・消化器】
犬の急性出血性下痢症と C.perfringensの消化管内増殖には相関があるかもしれない(2014年・PMID4895553)
Unterer, et al. “Endoscopically Visualized Lesions, Histrogic Findings, and Bacterial Invasion in the Gastrointestional Mucosa of Dogs with Acute Hemorrhagic Diarrhea Syndrome” Jornal of Veterinary Internal Medicine.28(1) 52-58
PubMedリンク
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4895553/
本文:無料公開(PDF)
==アブストラクト==
<背景>
イヌの出血性胃腸炎(HGE)症候群の病因は不明であり、
病理組織学的検査および微生物検査は剖検例でわずかに実施されるのみである。
<目的>
犬HGEの特徴的な粘膜病変(肉眼/組織学的)を特定し、原因菌種を同定すること。
<動物>
HGEと診断された犬10頭およびコントロール犬11頭。
事前に抗生物質が投与された犬と、
出血性下痢の原因に他の基礎疾患が診断された犬は除外された。
<方法>
HGEの犬 10頭に消化管生検を実施し、WSAVAガイドラインに従って評価した。
クロストリジウム属およびパルボウイルスの存在を組織学的/免疫化学的に調査した。
培養には、滅菌鉗子で採取した十二指腸生検組織を利用した。
<結果>
粘膜病変は、腸でのみ認められ、胃には見られなかった。
Clostridium perfringens が、全てのHGE犬の小腸粘膜表層で多量に検出された。
対照群では、C. perfringensは11頭中1頭のみでしか検出されなかった。
<著者の考察>
この研究は、C.perfringensと急性出血性下痢との相関性を示唆している。
病変が胃に存在しないことから、「出血性胃腸炎HGE」という用語は、
「急性出血性下痢症候群」と改める必要性があるのではないか。
キーワード:急性出血性下痢症候群、血性下痢、C. perfringens、出血性胃腸炎
<コメント>
はい、とあるブログのまねっこです(笑)
でも、まねっこでも勉強になるし、
私もできる限り(開業するなら、なおさら)文献も読まねばと思っています。
今回の文献は
「出血性大腸炎の紹介って、ものすごく古い専門書にはあるけれど
現在の獣医内科学ではどのような位置づけなんだろうか?」
という素朴な疑問で調べたのが、とりあげた理由です。
文献のアブストラクトでは
「C.perfringensと急性出血性下痢に相関性あり」とあります。
しかし、そもそもC.perfringensは
健康な哺乳類の消化管内には存在している菌ですから、
これが同定されたから、急性出血性下痢の原因として考えていいのだろうか?
と、途中からは別の疑問を抱いて、この文献を読ませていただきました。
著者の考察によれば
「急性出血性下痢の犬で、すべての十二指腸粘膜表面に、
C.perfringensが多量に認められたが、対照群にはほとんど見られなかった。
(統計学的に優位な差が見られた)
加えて、十二指腸粘膜の細菌叢は、個体により異なるはず。
だから、C.perfringensの単一増殖と出血性下痢には、相関があるに違いない。」
「でも、C.perfringensの増殖が、病気の原因なのか二次的変化かはわからない。」
とのことでした。
また、詳しい紹介は割愛しますが、別の報告では
急性出血性下痢の原因として、C.perfringens以外にも
サルモネラ・カンピロバクターのような腸粘膜侵入性細菌が関与する説や
腸内のアレルギー反応が関与するとの説もあります。
この文献だけで
「急性出血性下痢の原因はC.perfringensだ!」とは言えないようです。
複合的な要因があるのかもしれません。
いずれにせよ、この「犬の出血性下痢症候群」は、
適切な応急処置が実施されないと、命に関わる疾患であり、
まずは迅速な救命処置を実施することが肝要であることを、再認識しました。
明日以降のの治療に役立てていきたいと思います。
<ご注意ください>
このブログ内で紹介している学術情報は、
随時新しい情報・適切な文章に訂正加筆される可能性があります。
特に一般の飼い主様は、このブログ内の情報を鵜呑みにせずに、
必ずかかりつけの動物病院にご相談・ご確認されるようお願いいたします。
獣医師 川口