文献紹介(犬のキシリトール中毒)
紹介文献:
Retrospective evaluation of xylitol ingestion in dogs: 192 cases (2007-2012)
Meghan R. DuHadway,et al.
Journal of Veterinary Emergency and Critical Care 25(5) 2015, pp 646-654
「キシリトールを摂取したイヌ192例の回顧的調査 (2007-2012)」
ワンちゃんにキシリトールガムは危ない!
最近では、かなり一般的な情報となりましたが
まだご存知ない方もいらっしゃいますので、
啓蒙もかねて、ご紹介いたします
<概要>
・犬がキシリトールガムを食べると危険!
・血液検査では、低血糖と肝臓値の上昇が発生
・よく見られる症状は、嘔吐・昏睡・下痢
・中毒量は犬により差があるものの、 0.1g/kg以上の摂取は危険か
・摂取して2日は、注意が必要
「回顧的調査」というのは
いままでの医療記録をふりかえって調べてみたよ、という意味です
この調査が行われた2007年当時、獣医療の現場では
人では安全で有益なキシリトールは、
犬が食べると、低血糖と肝不全が起きる??と噂される程度で、
正確な調査報告はされていませんでした
そこで文献の著者は、こう考えました。
「よし、今まで病院に来た、キシリトールを食べた犬の情報を確認しよう!」
本研究の目的は、以下の通りです
調査は、アメリカの大学付属動物病院3件で実施され、
カルテの調査、飼い主様への追跡電話という形式が採用されています
調査項目は、以下の通りです。
「臨床徴候」というのは、人間の医療では
「患者が医者に訴えた症状」を意味しますが、
獣医療の場合は、わんちゃんはしゃべることができませんので、
「飼い主様が訴えた、自分のわんちゃんの症状」を意味します
調査結果です。
1.どのような症状がでるのか?
「徴候なし」というのは、
「キシリトールを食べちゃったけど、何にも症状ないよ」という意味です
食べてしまった犬の80%は、症状を示さなかったようです
認められた症状の内訳は、嘔吐が25件と一番多く、
ついで昏睡、下痢、運動失調…などが認められたようです
キシリトールを食べた後、なにも症状がない子と、
症状があらわれた子で、摂取量に差がないのか?も調べました
体重あたりの摂取量で表記しています
症状があらわれなかった群の摂取量は、0.03 g/kgから 3.64 g/kgでした
一方、症状があらわれた群の摂取量は、0.12 g/kgから 2.13 g/kgです
これは、
「3.64 g/kg食べてもなんともない子もいたし、
0.12 g/kgしか食べていなくても、症状がでた!」という意味で、
その子によって、反応に差がある可能性が疑われました
2.血糖値はどの程度低下するのか
この文献では、まず低血糖をこう定義しました。
「観測中の最低血糖値が、 60 mg/dl以下になること」
「症状を伴う低血糖」は、摂取した犬全体の4.2%でした。
そこで、一番よく質問が出る、
「キシリトールを食べて何時間後が、一番血糖値がさがるのか?」
これを調査したのが以下の図です
血糖値は、摂取およそ0.5時間(30分)でもっとも下がる傾向にあるようです。
しかし、恐ろしいことに、
「キシリトールを食べてから30時間もたってから低血糖 (最低血糖値)になった!」
という症例もいるようなのです
まちがえてキシリトールを食べた子は、2日は安心できないかもしれません
3.肝機能不全はおこるのか?
肝酵素値というのは、血液生化学検査にて確認される項目のひとつ
肝臓に負担がかかっていると、上昇します
一方、「機能不全」というのは、肝臓が仕事できていない状態を意味します
肝臓は解毒する臓器ですので、機能不全を起こすと全身に悪影響が出ます
肝酵素値が上昇し、肝臓に負担がかかっていても
肝臓がしっかり仕事ができていれば
「肝機能不全」とは呼びません
今回の調査では、
摂取後の肝酵素値の上昇は、全体の21.9%で認められましたが
肝機能不全に陥った症例は、なんと0でした!
文献筆者の考察です
この著者のお茶目なところなのですが、
今回の調査では結果がでていないことまで、考察しています。
(中毒量の推定、吐かせる処置の是非について)
そこは参考に止めるとして、この中毒量「0.1 g/kg」というのは、
どの程度の量なのでしょうか?
ここからは、文献にない補足資料です
実はキシリトールという甘味料成分は、天然食品にも含有されています
代表が、上記の果物・野菜です
では、犬はこれらを食べると中毒になるのでしょうか?
あくまで理論上の数値ですが、
もし仮に「イチゴで犬がキシリトール中毒」になるには、
体重1kgあたりイチゴ1パック食べる必要があります
日本に多いわんちゃん、プードルやチワワが推定体重3kg位だとして、
イチゴ3パックはさすがに食べられませんよね
ですので、おそらく犬がイチゴによるキシリトール中毒になるのは困難のようです
しかし、これがキシリトールガムとなると
話はがらっと変わります
5kgの犬が、たった一粒たべただけで中毒量に達してしまうのです!
先ほどのチワワ・ブードルなど体重3kg代の犬が、
1粒食べたらと想像すると …おそろしいですね
万が一、キシリトールガムを食べてしまったら
一刻もはやく、かかりつけの動物病院にご相談ください!
<注意>
ご紹介している文献の学術情報は、その後の追加報告により、
より正しい内容や異なる方針に、訂正・修正されることもあります。
本ブログの内容をそのまま鵜呑みにせず、疑問点や不安点は
かかりつけの獣医さんにまずはご相談していただくよう、お願いいたします。
獣医師 川口