飛鳥山動物病院 徒然日記

飛鳥山動物病院のスタッフブログです!

【文献紹介】飼い主が自宅でする皮下点滴は、難しくないものでしょうか?

海外の文献をふまえながら、病気や治療についてご紹介します。

今回のテーマは「自宅での皮下点滴」についてです。

 

そもそも、点滴ってなんですか?

体が安定化されるよう調整された水分を、注射で投与することを「点滴」と呼びます

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血管からゆっくり投与する「静脈点滴」(入院が必要です)

皮膚の下に薬液を注射する「皮下点滴」(処置はすぐ終わります)

 

静脈点滴の方が、治療効果が高いことが多く

一方、皮下点滴には入院しなくてよい、というメリットがあります。

 

どんな時に自宅で点滴するの?

本来点滴は、獣医師が管理する動物病院内で実施するものです。

 しかし、時に自宅での点滴が適応になることもあります。

(例:頻繁な点滴が必要で、通院では補えない時など)

このような時は、獣医の指示のもと、ご自宅で点滴することもあります。

 

紹介文献

Cooley CM, et al.
"Survey of owner subcutaneous fluid practices in cats with chronic kidney disease "
J Feline Med Surg. 2017 Sep 1;1098612X17732677

論文タイトル

慢性腎不全の猫へ、飼い主が実施する皮下点滴の実態調査

 

目的:これから自宅で皮下点滴する人が安心できる情報を伝える

 方法:インターネットアンケート

   慢性腎不全(CKD)の猫に「自宅での皮下点滴」したことがある人

   399人に質問しました。

 結果

 ほとんどの人が「獣医師から説明をしてもらい実践した」ものの

 「もう少し練習の機会が欲しかった」人も一部いました (37%)。

 

  実践してみた感想は、

 「自分にとって簡単だった・やや簡単だった (85%)」

 「猫にとってストレスが少ない/やや少ない (89%)」と、

 やってみたら大丈夫だった!と思う方がほとんどでした。 

 

 うまくできる工夫として、

 猫がいい子にできたら、美味しいものをご褒美に与えたり(57%)

 注射液をぬるく温めてあげる(60%)ことが多かったようです。

 

この結果から、著者はどのように考えたんですか?

 猫へ自宅で皮下点滴することは、

 実はそこまで難しいことではないのかもしれません。

 

今回の文献原文を英語で読みたい方

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28948902

今回の文献を翻訳で読みたい方

http://blog.livedoor.jp/asukayamaah/archives/9591869.html

 

訳者感想・コメント

 こんな文献を紹介しておきながら、

 実は当院では「自宅での皮下点滴」はあまり提案していません。

 

 自宅で飼い主から注射をされる、動物側のストレスや違和感、

 慣れない医療行為で悪影響が出ないか?という飼い主様の心労など配慮すると、

 一概に「自宅での皮下点滴がいいとこばかり」とも言えず、

 そこまで簡単安心な処置でもないのでは、と私(川口)は思っているからです。

 

 ただ、動物さんのメリットが勝り、よりよい生活が保てる場合は

 ご相談により、自宅での皮下点滴に対応することもあります。

(その場合は、医療的に安心安全であるよう、

 しっかりマネジメント・サポートさせていただきます。)

 

 自宅での点滴が適切かどうか?については

 飼い主様のみでご判断されずに、

 かならず、かかりつけの獣医さんとご相談するようお願いいたします。

 

獣医師 川口