文献紹介(maropitantと犬慢性気管支炎)
紹介文献:Investigation of Neurokinin-1 Receptor Antagonism as a Novel Treatment for Chronic Bronchitis in Dogs.
J Vet Intern Med, vol 30, 2016.
M.Grobman, C.Reinero
「ニューロキニン-1受容体拮抗作用は犬慢性気管支炎への新規治療薬となりうるか」
飼い主様には、とても難しい題名で申し訳ありません。
犬の慢性気管支炎という病気は、
2ヶ月以上続く咳が特徴の疾患です。
残念ながら特効薬はなく、薬で咳を抑えていかねばなりません。
一方、maropitant(セレニア®)という動物用胃腸薬があります。
この薬は、『NK-1受容体』という部位に作用することで効果を示します。
このような成分を『NK-1受容体アンタゴニスト』といいます。
嘔吐の中枢に作用し、気持ち悪さを抑えるために使用されます。
NK-1受容体は、嘔吐中枢以外にも様々な部位に存在します。
では、咳の中枢をこのmaropitantで抑えられないだろうか?
というのが、この文献のテーマです。
わかりやすく、表記すると…
※ここでは、PECOが何か?については割愛させていただきます。
調査項目は、以下の通りです。
薬を使用したわんちゃんの飼い主様にアンケートを実施して
「改善がありましたか?」とヒアリングしました。
また、BAL液細胞診という特殊な検査により、気管支内の炎症が消えていたかも調査しました。
結果です。
飼い主様へのアンケートでは「咳症状は改善した」という傾向にありました。
しかし、気管支内の炎症には改善はなかったようです。
考察です。
CCBというのは、犬慢性気管支炎のことをさします。
今回の飼い主様への調査法では、「プラセボ効果」が出ていた可能性があります。
プラセボ効果というのは、その薬に実は効果がなくても、
「この薬を飲んだのだから効果があるはずだ」と思うことで、
あたかも効果がでているように錯覚してしまう現象のことです。
しかし、実際にmaropitantは犬の慢性気管支炎に対して、
鎮咳(咳止め)効果があるのかもしれません。
この文献だけでは、結論は導けなさそうです。
加えて筆者は、「maropitantは、犬の慢性気管支炎の治療薬として適切ではない」
とも考察しています。
その理由は、maropitantoにCCBへの消炎効果が認められず、これでは鎮咳効果が認められるばかりであり、炎症による病気の進行が抑えられない、と考えたためのようです。
犬の咳に対して、maropitantoが適応になるのかどうか?
診療における処方の1選択となる可能性は秘めているようですが、
引き続き情報を集め、皆様の治療に還元していきたいと思います。
獣医師 川口